思えば、道草から始まった人生

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Young積分と一点抜き論法〜高校生でも分かるが大学生にも面白い証明〜

概要

Young積分という積分手法とその積分が収束する証明が分かりやすくかつ面白かったのでそれについて紹介する。
最初に述べておくとこの記事での主定理は

定理(Young 1936)
fが \alpha -Hölder連続でありgが \beta -Hölder連続であり, \alpha + \beta > 1であるならば
fはgに沿って積分可能である。

という定理であり、この証明について書く。

積分を振り返る

高校数学では不定積分微分の逆演算で、定積分は不定積分を制限して面積を求める手法であるように習う。
大学では、積分は最初から面積を求める手段と割り切っており、一番最初に習う積分方法は次のようなリーマン積分である。
リーマン積分は次のような手順で計算される。

  • 積分区間を好きなように分割する
  • その分割から好きなように代表点を取ってくる
  • 下図のように長方形を作って面積を測る
  • 分割の幅をどんどん小さくしていく
  • → グラフの面積が求まる!

これを式で書くと以下のようになる。

f有界区間 [a,b]で定義された実数値の関数とする。
この区間[a,b]上に a = t_0 < t_1 < \cdots  < t_n =bというn+1個の点を設けて分割する。
このように分割する方法を  \Delta = \{t_0,t_1,\cdots,t_n\} によって分割するという。
また、分割\Deltaの中から  t_i \le x_i \le t_{i+1} を満たすように代表点  \xi = \{ \xi_0 , \cdots \xi_n \}を与える。
このように関数f,分割Δ,分割の代表点ξが与えられたときに、それに対するリーマン和


{ \displaystyle \large	
s(f,\Delta,\xi) := \sum_{i=0}^n  f(\xi_i)|t_{i+1} - t_i | 
}
という風に定義される。この分割の幅を小さくしていくと,リーマン和がある値に収束するとき,その極限をリーマン積分という.

これだけ式を並べられてもよくわからないのでWikipediaさんから分かりやすいGIF画像を借りてくると
f:id:k1ito:20170205111724g:plain
このようになる。
リーマン積分は、高校数学の区分求積法と似ているが、分割のとり方も代表点のとり方も自由というところで異なる。

Young積分とは

今までは関数を区間において積分するものだったが、更に関数を関数に沿って積分したいことがある。これが大学1年生で習うスティルチェス積分である。

gを区間[a,b]上で定義された実数値関数とする。
fも同じく区間[a,b]上で定義された実数値関数とする。
Δを区間[a,b]の分割  a= x_0 < x_1 < \cdots < x_n = b とする。
 \xi_i x_{i-1} \le \xi_i \le x_{i} を満たすように取った代表点とする。
このとき


{ \displaystyle \large	
 s(f,g,\Delta,\xi) = \sum_{k=1}^n  f(\xi_k) (g(x_k) - g(x_{k-1})) 
}
という風にして、fのgに関するリーマン和を定義する。
この分割の幅 { \displaystyle \max_{1\le k \le n}(x_k - x_{k-1}) }を0に近づけていくと
 \xi_iのとり方によらずある一定の値に収束するときその極限をスティルチェス積分といって

{ \displaystyle \large
 \int_a^b f dg}
として表す。

これは完全にリーマンの拡張となっている.なぜdgという風に表すのかというと、gが微分可能で導関数も連続なとき


 { \displaystyle  \int_a^b f dg  = \int_a^b f(x)g'(x)dx}
という式が成り立つからである。

ここで問題となるのが、f,gがどんな性質を満たすときにこの積分を行って良いのかということである。この記事ではこれからこの積分可能条件について焦点を当てていく。

どんなときに積分可能なのか

微分積分論の有名な教科書、杉浦光夫先生の「解析入門I」にはfが連続でありgが有界変動関数であるとき積分が可能であるという。
しかしYoungは更に新しい条件を見つけ、積分可能な関数の幅を広げる。これがYoung積分と言われる所以である。
結論から言うと次のような定理になる。

定理(Young 1936)
fが \alpha -Hölder連続でありgが \beta -Hölder連続であり, \alpha + \beta > 1であるならば
fはgに沿って積分可能である。

ではこの定理を証明してみよう。

Hölder連続とは

区間[a,b]で定義された関数fがα-Hölder連続(0<\alpha\le 1)であるとは、


{ \displaystyle \large	
\max_{a\le s < t \le b } \frac{ |f(t) - f(s)| }{|t-s|^\alpha} < \infty
}
という最大値が存在することである。この最大値をfのα-Hölderノルムと言って, \|f\|_{(\alpha)}と表す。
つまり,fが α-Hölder連続であるとき

{ \displaystyle \large |f(t) - f(s)| \le \|f\|_{(\alpha)}|t-s|^\alpha
}
が全てのs,tに対して成り立つのである.
特にα=1のときはリプシッツ連続と呼ばれ、α=0のときは有界な関数となる.
(厳密に書くとこの定義式はmaxではなくsupだが高校生も対象読者としているので怒らないでほしい)

一点抜き論法

この証明のキーとなるのが次のような補題である。これは高校生でも証明できるレベルの補題であるので一度立ち止まって証明を考えてみて欲しい。

補題
[a,b]を有界区間として,
 \Delta = \{ a = t_0 < t_1 < \cdots < t_n = b \} 区間の分割とする。
このとき, ある  k \in \{ 1,2,\cdots,n-1 \} が存在して


{ \displaystyle \large	
 |t_{k+1} - t_{k-1}|   \le  \frac{2}{n-1} |b -  a|
}
がなりたつ。

たしかに言われてみれば成り立つような補題であるが、一々こんな補題を見つけてくるのは頭がいい。
更にこれを有効活用してあっさり証明してしまうんだからもっと頭がいい。解答はLyons(1998)を見よ。

定理の証明

[証明]
もう一度定義を確認すると、積分可能であることを示すには、分割の幅を0に近づけていくとリーマン和の値がある一定の値に収束することを示せばいい。
つまり,分割 \Delta = \{ a = t_0 < t_1 < \cdots < t_n = b \} に対して,


{ \displaystyle \large 
S(\Delta) = \sum_{i=1}^n g(t_{i-1})(f(t_i) -f(t_{i-1}))
}
として定義すると、この分割の幅を小さくしていくとSが収束することを示せばいい.


区間の分割を \Delta = \{ a = t_0 < t_1 < \cdots < t_n = b \} とする。
まず、補題のようなkを一つ取る。そして, \Delta \setminus \{t_k\}を分割Δから {t_k}を抜いたような分割と定義する。
ここで,両分割によって定義されるリーマン和の差を考えると次が成り立つ.
{
\displaystyle \large
\mid S(\Delta) - S(\Delta \setminus\{t_k\}) \mid  \\
\large
=\ \mid g(t_{k-1}) (f(t_k) - f(t_{k-1})) + g(t_{k}) (f(t_{k+1}) - f(t_{k})) - g(t_{k-1}) (f(t_{k+1}) - f(t_{k-1})) \mid }
同じ部分をキャンセルすると
{\large
=\  \mid g(t_{k-1}) (f(t_k) - f(t_{k+1})) + g(t_{k}) (f(t_{k+1}) - f(t_{k})) \mid \\
\large
=\  \mid (g(t_{k}) - g(t_{k-1}))(f(t_{k+1}) - f(t_k)) \mid
}
となる.ここで,f,gがそれぞれα,β-Hölder連続であるという仮定を使うと,
{\displaystyle \large \le \  \|g\|_{(\beta)}  |t_{k} - t_{k-1}|^\beta \|f\|_{(\alpha)}  |t_{k+1} - t_{k}|^\alpha}
という風に不等式評価をできる.さらにtに関する幅を大きくとって揃えると
 {\displaystyle \large  \le \  \|g\|_{(\beta)}  \|f\|_{(\alpha)}  |t_{k+1} - t_{k-1}|^{(\alpha+\beta)}}
となる.ここで,補題のようにkをとったので,
{\displaystyle \large  \le  \|g\|_{(\beta)}  \|f\|_{(\alpha)}  (\frac{2}{n-1} (b - a)  )^{(\alpha+\beta)}}

そして,この一点抜きを繰り返すと最終的に分割は端の2点だけになる.そして,
{\displaystyle \large
 \mid S(\Delta) - g(a) (f(b) - f(a)) \mid \\
\large
\le  \|g\|_{(\beta)}  \|f\|_{(\alpha)}  2^{(\alpha+\beta)} \mid b -a \mid ^{(\alpha+\beta)}}  \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{k^{(\alpha+\beta)}}
ここで区間の幅を0に近づけていくと,最後の
{ \displaystyle  \large
\sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{k^{(\alpha+\beta)}} }
は定理の仮定 α+β > 1 より収束する(ゼータ関数)
故に、Sが収束して積分の値が定まり、積分可能となった. (証明終了)

そもそもなぜこのような記事を書いたか

最近ラフパス理論というのを勉強していて,そこでT.Lyonsによるこの証明に出会った。
すごく素朴な補題と,仮定をきれいに使って不等式評価をしていくところに頭の良さを感じ,感動したので記事にまとめておくことにした。
ラフパス理論を拡張したM.Hairerは直近2014年のフィールズ賞を受賞しており、ラフパス理論自体を勉強するのも面白い。

参考文献

L. C. Young, An inequality of H¨older type, connected with Stieltjes integration, Acta Math. 67 (1936), 251–282.
(ヤング積分が初めて導入された論文)

Lyons, T.; Differential equations driven by rough signals. Rev. Mat. Iberoamericana 14 (1998), no. 2, 215–310.
(この証明が乗っていたもの.この記事では微妙に厳密な証明は省略してるので厳密なものはこれを参照)

杉浦光夫:解析入門 I,東京大学出版会 (1980)
(言わずと知れた解析学の入門書.積分の定義や性質についてはこれが詳しい)