読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

思えば、道草から始まった人生

k1itoがお寿司が食べたいと思ったら書く(つまり月に1回ぐらいの頻度で)

私が卒業研究(数学講究)で勉強したことの概略〜本のリストと感想〜

数学

概要

東京大学理学部数学科の卒業研究とも言うべき、数学特別講究が2017年1月16日を持って終了したので感想等を書く。

目次

  • そもそも数学講究とは
  • 夏学期の講究について

  • 冬学期の講究について

  • 終わりに

  • 付録(私達の代の講究のテキストと著者一覧)

そもそも数学講究とは

シラバスには数学特別講究について以下のように説明してある。

数理科学に関する基礎知識の理解を深め、応用力を涵養する。
数学科におけるもっとも重要な科目である。

 これだけでは具体的なことが分からないので、授業方法の欄を見てみると、

数理科学における基本的テキストを選んで、指導教員のもとで定期的に購読を行う。

 とある。文系的に言うとゼミを行うわけである。

しかし、以下の点に注意すべきである。

  • 卒業論文は書かない
  • ほとんどが教官(教授または准教授)と1対1のセミナーである。いくつかは生徒2対教官1、また多い所は3対1でやっている。
  • テキストとはこのようなものを扱う。(2年経つとリンクが切れるので我々の代のものをこのページの最下部に示しておく。)

卒業論文がないと聞くと楽に聞こえるかもしれないが、毎週一流の数学者の前で1人で話さないといけないし、テキトウにやろうものなら教育的指導をいただけるのでなかなか辛いものがある。

以上が、数学科の講究についての概要であり、以下は私の講究についての概要と個人的な感想である。

夏学期の講究について

概要

夏学期は、私は数論幾何学を勉強するためにWillian FultonのIntersection Theoryを主に読んだ。Intersection Theoryとは代数的サイクルの交叉について記述する理論である。

そもそも(代数)幾何学は、ある図形単体を考えるだけでなく(例えば三角形は尖っているが円は滑らかだ等)、ある図形と他の図形との関係を記述することにも(接している・二点で交わる等)重点を置いていることは、高校数学からも明らかだろう。現代の代数幾何学は図形ではなくschemeという図形を一般化したものを主に扱っており、schemeschemeの関係、さらには代数的サイクル(schemeを幾つか足し合わせたもの)と代数的サイクルの交わり方を考察するのが代数的サイクルの交叉理論である。

なぜこの本を選んだのか

代数的サイクルの理論結果として一つ大きなものにGrothendieck-Riemann-Rochの定理というのがある。これは有名なRiemann-Rochの定理を拡張したものである。私はこれを一つの目標として勉強していたが、そもそも代数幾何学の世界ではIntersection Theoryぐらいは常識として仮定されているので知っておかなければならないというモチベーションで勉強を始めた。また上にあげたschemeはかなり抽象的で扱いが難しくその扱いに慣れたいという気持ちもあり、また数論幾何学との絡みにも興味があった。

本について

FultonのIntersection Theoryは代数的サイクルの交叉理論について勉強するならこの本しかないというレベルの本である。特徴として、

  • Intersection productの構成からその応用まで広範な内容を紹介している
  • 例(と言う名の演習問題)が大量にあり、それぞれの例に代数幾何の歴史がある。
  • scheme論や環論についてもAppendixに詳しく書いてある
  • これだけたくさんの内容を書いておきながらこの薄さとは裏に何かあるに違いない。いや行間に何かある。

というぐらいである。和書に「代数的サイクルとエタールコホモロジー」という本があるが、これはFultonの本を和訳してやや著者好みに書き換えたものである。さらに数論との絡みについても詳しい。これもかなり薄いので行間に何かがある。

Intersection Theoryが気になる人へ

Intersection Theory自体が気になるひとには、上記にあげたFultonと齋藤秀司先生, 佐藤 周友先生著の代数的サイクルとエタールコホモロジーがおすすめである。3264 and All That: A Second Course in Algebraic Geometry というEisenbudの本(pdf(直接リンク注意)が無料でダウンロードできる)があるが、これはFultonの足りない部分を補うように書かれている印象があるのでFultonと一緒に読む方が私は良いと思う。

現代的代数幾何の入門書についてはたくさんの本があり、他の代数幾何専攻に聞いてもらった方が良いと思われるが、最もpopularとされているものがHartshorneのAlgebraic Geometryであり、実際Fultonもこれを読んだことを前提に議論を進めている。

冬学期の講究について

概要

 

冬学期は、個人的な思いにより今までの代数幾何については一旦お休みにして、確率論を勉強しようと思った。注意しておくと、学科によっては夏と冬で全く違うテーマを勉強する学科もあるが、数学科では通年で同じことを勉強するのがデフォルトであり、変わるにしても代数から確率論に変わるようなことはほとんどない。私がなぜ専攻を変えたのかについてはまた後日詳しく書こうと思うが、一言で言うと数論では数学しかできないが、確率論の世界では色んな分野のことを勉強できると私は思ったからである。

しかし、確率論だけを勉強するのは私にはつまらなく見えたので、確率論と数値解析について勉強することにした。これも上記の動機と似たような理由からである。

以下冬学期中に読んだ本のリストと個人的な感想について書く

1冊目 Kloeden&Platen "Numerical Solution of Stochastic Differential Equations"

確率論と数値解析を勉強するとなるとまずこの本が出ることが多いと思う。実際7270ものcitationを稼いでる時点でかなりこの分野ではスタンダードだ。この本の特徴は

  • 確率論についてもかなり基礎的なところから書いてある
  • 数値解析については常微分方程式の数値解析から書いてあり分かりやすい
  • PC-Exerciceと呼ばれる実装課題がたくさんあり分かりやすい
  • 確率微分方程式についてもっと詳しくなりたければ他書を当たったほうが良い.
  • 現実世界の問題との関連についても書いてある
  • 理論よりの人・実装よりの人など幾つかの人種に向けた配慮がある

2冊目 Iacus "Simulation and Inference for Stochastic Differential Equations"

少し統計よりのことがしたいと思ったのと、他の視点から確率微分方程式について見てみたいと思ったのでこの本を選んだ。

  • 理論についてはあまり記述はないが実装についてはたくさんの記述がある
  • 1冊目よりも比較的新しいので幾つか新しい理論についての解説がある
  • 特に統計については詳しい
  • 実装用のコードがあるがこれは全てRのsdeというパッケージの説明書である

3冊目 Kusuoka "Approximation of expectation of diffusion processes based on Lie algebra and Malliavin calculus." 

この辺当たりから僕の講究の歯車が狂い始めた(良い方向に)。この論文はKLNVという今でも研究が盛んな確率微分方程式についてその理論の発案者が最初に書いた論文を僅かに手直しした論文である。手直ししたはずなのに誤植が多い。

  • マリアバン解析やLie群論の知識が必要である
  • KLNV自体が歴史が浅くこの記念碑的論文を読むことによって現代の理論に足を踏み入れることができる
  • セルフコンテインドではなくKusuoka-Strook"Applications of Malliavin Calculus"という3編の論文を読んでから読む方が良い
  • この論文を参照している論文を読んでみても面白い。私はとりあえずNinomiya-Victorを読んだ

4冊目 Lord, Powell,Shardlow. "An introduction to computational stochastic PDEs"

SDEの中でもSPDEという分野について詳しく書かれた入門書である。なんとなくPDEについても知っておきたいと思ったのでこの本を選んだ。

  • 関数解析偏微分方程式論から丁寧に解説してある
  • SPDE特有の概念(Q-Wiener過程など)についても丁寧に解説してある
  • ODE・SDEの数値解析についても触れてある
  • SDEをやっているのかPDEをやっているのか数値解析をやっているのか分からない(ぜんぶまんべんなくやってる)

5冊目 Platen, Bruti-Liberati "Solution of Stochastic Differential Equations with Jumps in Finance"

1冊目の続編として更にジャンプ付の確率過程についてファイナンスと絡めながら書かれた本である.もう一度ちゃんとした教科書を読みたいと思ったのでこの本を選んだ.

  • ジャンプ付確率過程についてはすこしだけ書いてある
  • SDEの数値解析については1冊目に完全に飛ばしてある
  • ファイナンスについては詳しく書いてある.フィルタリングなども書いてある
  • 安定性についてもく詳しく分かりやすい
  • 結局理論はSDEのときを手直しして面倒くさくしただけだった

6冊目 Kunitomo, Takahashi. "On validity of the asymptotic expansion approach in contingent claim analysis." 

漸近展開について勉強しておきたいと思ったのでこの論文を選んだ,結果としてあまりこの論文は読まなかったが.

  • 漸近展開がファイナンスに利用されるようになった記念碑的な論文
  • 理論についてはYoshidaおよびWatanabeに飛ばしてある
  • もちろんマリアバン解析については他の教科書で勉強しなければならない
  • 具体例についてはこの前の同著者らによる論文に詳しく書いてある
  • Yoshidaの漸近展開の定理の仮定を満たすかチェックする論文
  • 理論と応用が程よいバランスで書かれている
  • これらの論文を参照している論文を読むとさらに面白い

終わりに

以上が私の講究についての概要及び感想である。この講究を進めていく中でここには書ききれないほどのことを指導教官の先生から学んだので、それについては感謝してもしきれない。講究についてのアドバイス・教訓などを書こうと思ったが特に私が思いつくようなことは数学科のみなさんなら言われずとも実践できると思うので書かないが、

僕のような落ちこぼれでも何とか1年間講究を楽しむことが出来たので、そう神経質にならずに是非講究を楽しみにしておいて下さい。

ということだけ書いておく。

 

付録(私達の代の講究のテキストと著者一覧)

テキスト名 著者
Intersection Theory Fulton
Lie algebras of finite and affine type
(Cambridge studies in Advanced Mathematics 96)
R. Carter
Elements of the representation theory of associative algebras. Vol. 1.
(London Mathematical Society Student Texts 65)
I. Assem, D. Simson, A. Skoweonski
Algebraic Geometry R.Hartshorne
Positivity in Algebraic Geometry I, II R. Lazarsfeld
Algebraic Geometry Robin Hartshorne
可換代数と組合せ論 日比孝之
Algebraic Number Theory J.W.S Cassels and A. Frohlich
代数幾何 上野健爾
Introduction to Lie Algebras and Representation Theory James E. Humphreys
Representations of Semisimple Lie Algebras in the BGG Category O (Graduate Studies in Mathematics) James E. Humphreys
Algebraic Geometry I, Complex Projective Varieties David Mumford
Abelian Varieties David Mumford
Algebraic Geometry R. Hartshorne
Principle of Algebraic Geometry P.Griffiths,
J. Harris
古典群の表現論と組合せ論 岡田聡一
Differential Forms in Algebraic Topology
(Graduate Texts in Mathematics V. 82)
Raoul Bott and Loring W. Tu
Lectures on Symplectic Geometry Ana Cannas da Silva
Oeuvres - Collected Papers, Vol.1 J.-P. Serre
Ricci flow and geometrization of 3-manifolds John Morgan and Frederick Fong
Canonical metrics in Kähler Geometry (Lectures in Mathematics) Gang Tian
The Geometry of Four-Manifolds S. K. Donaldson
P. B. Kronheimer
Mirror Symmetry Hori et al.
scl (MSJ Memoirs 20) Danny Calegari
A course on geometric group theory (MSJ Memoirs 16) Brian Bowditch
Groups acting on the circle
47(2001), 329-407
Etienne GHYS
Constant Mean Curvature Surfaces Frederic HELEIN
Lectures on the Geometry of Manifolds (Second Edition) Liviu I. Nicolaescu
Singular Points of Complex Hypersurfaces (Annals of Mathematics Studies : No. 61) J. Milnor
Algebraic geometry and arithmetic curves Qing Liu
A first course in modular forms Fred Diamond, Jerry Shurman
Expansion in Finite Simple Groups of Lie Type (Graduate Studies in Mathematics) Terence Tao
An Introduction to Symplectic Geometry R. Berndt
Lectures on Dynamical Systems Eduard Zehnder
Differential Equations, Dynamical Systems, and an Introduction to Chaos (Third Edition) M.W. Hirsch, S. Smale,
R.L. Devaney
Riemann Surfaces (Oxford Graduate Texts in Mathematics) S.K. Donaldson
Metric Spaces of Non-Positive Curvature Martin R. Bridson and André Haefliger
The Finite Simple Groups Robert A. Wilson
A Course in Functional Analysis John B. Conway
Analysis Now Gert K. Pedersen
Partial Differential Equations: Second Edition (Graduate Studies in Mathematics) Lawrence C. Evans
Lecture Notes on Mean Curvature Flow Carlo Mantegazza
Introduction to Hyperfunctions Akira KANEKO
L^2 approaches in several complex variables. 大沢 健夫
Introduction to Partial Differential Equations (2nd Ed) Gerald B. Folland
Analysis (2nd Ed) Elliott H. Lieb, Michael Loss
Nonlinear Analysis and Semilinear Elliptic Problems (Cambridge studies in advanced mathematics 104) A. Ambrosetti and A Malchiodi
ソボレフ空間の基礎と応用 宮島静雄
Real Analysis, (Second Edition) Gerald B. Folland
関数解析 宮島静雄
Fundamentals of the Theory of Operator Algebras Richard V. Kadison, John R. Ringrose
Ergodic theory with a view towards number theory Manfred Einsiedler and Thomas Ward
Trees Jean-Pierre Serre
確率論 (岩波基礎数学選書) 伊藤 清
Probability with Martingales David Williams
An introduction to complex analysis in several variables, 3rd Edition. Hormander, L.
A Primer of Nonlinear Analysis (Cambridge Studies in Advanced Mathematics) Antonio Ambrosetti, Giovanni Prodi
リー群と表現論 小林俊行--
大島利雄
複素領域における線形微分方程式 原岡喜重
非線形発展方程式の実解析的方法 小川卓克
Fourier Analysis and Nonlinear Partial Differential Equations Hajer Bahouri, Jean-Yves Chemin, Raphaël Danchin
Mathematicas in Population Biology Horst R. Thieme
Mathematical Tools for Understanding Infectious Diseses Dynamics Odo Diekmann, Hans Heesterbeek and Tom Britton
A Mathematical Introduction to Wavelets P. Wojtaszczyk
Functional Analysis P. D. Lax
偏微分方程式の数値解析 田端正久
Introduction to the Numerical Analysis of Incompressible Viscous Flows William Layton
Introduction to the Theory of Computation Michael Sipser
Computer Organization and Design, Fifth Edition: The Hardware/Software Interface David A. Patterson, John L. Hennessy
Methods and Models in Mathematical Biology Johannes Muller, Christina Kuttler
Dynamics in one complex variable John Milnor
ソリトンの数理 三輪哲二、神保道夫、伊達悦朗
Levy Processes and Stochastic Calculus David Applebaum
Mathematical Statistics: Asymptotic Minimax Theory A. Korostelev, O. Korosteleva
Introduction to Stochastic Calculus Applied to Finance, 2nd ed. D. Lamberton, B. Lapeyre
The Malliavin Calculus and Related Topics, 2nd ed. D.Nualart
Analysis on Symmetric Cones J. Faraut and A. Koranyi
Spaces of Constant Curvature Joseph A. Wolf
リー群と表現論 小林俊行・
大島利雄